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東京地方裁判所 平成3年(ワ)5028号 判決

主文

一  原告が被告に賃貸している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成三年三月一日以降、一か月八四四万一五七一円であることを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

第一  請求

原告が被告に対し賃貸している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成三年三月一日以降、一か月八九八万六三二一円であることを確認する。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、被告に対し、昭和五七年三月一日、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を要旨次の内容で貸し渡した(なお、当時の四階部分の面積は五二・七〇坪、駐車場は四台分)。

(一) 期間 三年間

(二) 賃料

(1) 四階及び六階ないし八階部分(以下「地上賃貸部分」という。) 坪当り七七〇〇円 小計三〇三万六四九五円

(2) 地下一階部分 坪当り四〇〇〇円 小計金一万四〇〇〇円

(3) 駐車場部分 一台当り三万八〇〇〇円 小計一五万二〇〇〇円

(4) 屋上広告物金二五万円

(5) 共益費 坪当り 地上部分二四〇〇円 地下一階部分一五〇〇円 小計九五万一六九〇円 合計四四〇万四一八五円

(三) 支払方法 毎月二五日翌月分支払

2(一)  右賃料は、昭和六〇年の改定を経て、昭和六三年三月一日以降次の金額に改定された(なお、四階部分は五二・七〇坪、駐車場は三台分)。

(1) 地上賃貸部分 坪当り九七四四円 小計三八四万二五四四円

(2) 地下一階部分 坪当り五〇六二円 小計金一万七七一七円

(3) 駐車場部分 一台当り四万八〇四八円 小計一四万四一四四円

(4) 屋上広告物金三〇万二四〇〇円

(5) 共益費 坪当り 地上部分三二八一円 地下一階部分二一五〇円 小計一三〇万一三八七円 合計五六〇万八一九二円

(二)  ところで、その後賃貸部分(四階)の面積が昭和六三年四月一日に一一・三〇坪、平成二年七月一日に二〇・〇〇坪増加したので、平成三年二月二八日現在の賃料は、四階部分について三〇万四九八七円、共益費について一〇万二六九五円それぞれ増加し、合計六〇一万五八七四円であつた。

3  原告は、被告に対し、平成三年三月一日の賃料改定期に際し、次のような賃料増額の意思表示をし、右意思表示は同日までに被告に到達した。

(1) 地上賃貸部分 坪当り一万五〇〇〇円 小計六三八万四七五〇円

(2) 地下一階部分 坪当り七七九〇円 小計二万七二六五円

(3) 駐車場部分一台当り六万円 小計一八万円

(4) 屋上広告物三七万八〇〇〇円

(5) 共益費 坪当り 地上部分四一〇〇円 地下一階部分二六八七円 小計一七五万四五六九円 合計八七二万四五八四円 消費税二六万一七三七円 総合計八九八万六三二一円

二  争点

平成三年三月一日における適正賃料額がいくらかが争点である。

第三  争点に対する判断

一  《証拠略》によれば、以下の事実を認めることができる。

1(一)  被告はもと、大阪商船三井船舶株式会社(以下「商船三井」という。)が全株式の八五パーセント以上を有する同社の子会社であつたところ、原告も商船三井の関連会社であり、原被告は互いに商船三井グループに属する会社であつた。

ところが、商船三井は、平成元年六月ころ、保有していた被告の株式を全て他に譲渡したため、被告は、商船三井の子会社ではなくなつた。

(争いがない)

(二)  したがつて、商船三井と被告との間において資本的繋がりはなくなつたが、役員については従前の体制が引き継がれ人的な支援は継続されることになり、商船三井からグループ会社にその旨協力依頼の通知がなされた。

2  なお、本件建物を含む一体の建物(以下「本件ビル」という。)は、もと被告が保有していたが、被告の経営上の理由からこれを手放すこととなり、商船三井の斡旋により、昭和五七年三月、その敷地とともに原告が取得することとなり、本件建物につき、原告が賃貸人、被告が賃借人となつたものである。

当時、原告は、海運業の再建整備に関する臨時措置法及び外航船舶建造融資利子補給臨時措置法に基づく利子補給等の優遇措置を受けていたため、五〇〇〇万円を超える固定資産の取得に際してはあらかじめ運輸大臣の許可を得ることが義務付けられていたこともあり、また、右売買価格を客観化するため、被告は、業者に本件ビルとその敷地の鑑定を依頼していたが、その際、原告から鑑定業者に対し鑑定価格は一二億円を下回るようにとの要望が出され、鑑定業者から被告に対し一二億二〇〇〇万円を鑑定価格にするのが相当との意向が示され、結果的に一二億円で原被告間に取引が成立した。

3  ところで、平成二年一月時点における、本件ビルを賃借中の他の賃借人に対する賃料額は、貸室一坪当り一万五〇〇〇円であり、また、本件建物に関する鑑定結果によれば、平成三年三月一日現在の継続支払賃料の適正額は、一平方メートル当り、地上賃貸部分四二五八円、小計五九九万一五〇〇円、地下一階部分同二二五〇円、小計二万六〇〇〇円、駐車場部分、一台当り五万九〇〇〇円、小計額一七万七〇〇〇円である。

4  右鑑定価格は、差額配分法(折半法)による価格を一平方メートルあたり地上賃貸部分で五八六八円、地下一階部分で三四七八円とし、スライド法(社団法人東京ビルヂング協会調査資料による「室料値上げの実施状況」を基準とするもの)による価格を、一平方メートルあたり、地上賃貸部分で三五三八円、地下一階部分で一八三七円、賃貸事例比較法による価格を、一平方メートルあたり、地上賃貸部分で四七五五円、地下一階部分で二四六〇円とそれぞれ算定した上、スライド法による賃料は、最終合意賃料が関係会社間の賃貸借でやや低位の賃料で賃貸されていたと思料されることなどから、契約経緯等を勘案の上、右の各価格を一対五対四の割合で加味して算定したものと認められる。

二1  前記争いのない事実及び右認定事実によれば、従前の本件建物の賃料は、本件ビル内の他の賃借人に比し低位に定められており、これは被告が商船三井の子会社として資本的繋がりがあつたことによるものと推認されるから、資本的繋がりが切れた以上、役員などを派遣しているわけではない原告において本件ビル内の他の賃借人の賃料水準に近づけようとすること自体は合理的であり、低位に推移していた合意賃料を基準にしたスライド法により算定した価格を中心に据えつつ、比準法により算定した価格四割、差額配分法により算定した価格一割を加味して算定した鑑定手法も合理的と認められるから、これをもとに賃料額を算定するのが相当である。

2  被告は、本件ビルと敷地を原告に譲渡した際の金額が当時の時価に比べて相当に安価であつたとして、その点も賃料額を低位にすることの根拠になつていたはずであるとの主張をなすところ、鑑定に際し、原告が希望価格を述べたことは前記認定のとおりであるが、原告の希望が述べられたことにより、鑑定価格が時価に比べて相当に安価に押さえられたとまで認めるに足る的確な証拠は存在しない。

3  被告はまた、原告が本件ビルの取得に際し、運輸省に提出した本件ビルによる収支予想表で、貸室料収入を三年間で一〇パーセント増加と見込んで計画を立てていたことをもつて、賃料増額を低く押さえるべき根拠の一つとして主張し、なるほど右書面にその旨の増加率の記載のあることは認められるものの、運輸大臣及び商船三井にあてた文書に、本件ビル購入後の資金繰りに無理がなく、経営基盤の強化が計られることを示す資料として収支予想表を引用していることからみて、これは国からの補助を受ける立場にあつた原告の借入金の資金計画の相当性などを示すためのものに過ぎないものと推認され、右記載の存在をもつて賃借人に対する賃料増額を制限するものとは解されないから、この点の被告の主張も採用できない。

三  鑑定対象以外の賃料及び共益費については、これまで一体として賃貸されてきた原被告間の賃貸経緯及び借家法の趣旨からして、地上賃貸部分の増加率を考慮して算出し、屋上広告物三五万四七〇〇円、共益費合計一六四万六五〇〇円とするのが相当であり、これと鑑定価格との合計金額に消費税を加算した八四四万一五七一円が消費税込みの相当賃料額であると認められる。

(裁判官 古田 浩)

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